Macromedia Webアクセシビリティセミナー レポート
- 日時:2004年7月14日(水)
- 会場:渋谷 セルリアンタワー東急ホテル
- 講演者/パネリスト:植木真、Bob Regan、石川准、神森勉、NORI、高橋宏祐(敬称略)
目次
セミナー概要
Webコンテンツのアクセシビリティに関心が集まる中、「高齢者・障害者等配慮設計指針」として6月に発表されたJISのWebアクセシビリティ指針「JIS X 8341-3」の成り立ちや概要の説明、そして作成する側と実際に閲覧する側から見た具体的実例等が紹介された。
セミナーのポイント
- ウェブコンテンツを閲覧する人のなかには、視覚に障害を持った人、聴覚に障害を持った人など、多様なユーザが存在することに気付く。
- 音声ブラウザなどを実際に利用し、どのように読み上げが行われるか、どのような表示で見えるか、を知ることが重要。
- JIS X 8341-3は、企画・設計・保守など運用の全ての行程にわたる指針である。
- JIS X 8341-3は、Webデザイナーや開発者だけでなく発注者や運用者など全ての人が理解すべき指針である。
- JIS X 8341-3には、WCAG1.0(Web Contents Accessibility Guidelines1.0)や米国リハビリテーション法第508条にはない独自の項目が含まれている。
JIS X 8341-3:2004の概要
JIS X 8341-3とは?
2004年6月20日に経済産業省が制定した日本工業規格「高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス−第三部:ウェブコンテンツ」。高齢者や障害者、そして病気やけがなどにより一時的に障害を持っている人がWebコンテンツを利用できるように配慮するための指針。
(→JIS X 8341-3 解説 1.制定の趣旨と経緯)
制作部門だけでなく、規格・設計から保守・運用まで全ての行程において配慮すべき原則で、発注者から運用担当者まで全ての人が理解すべきもの。
国や自治体・公共団体などのWebは、本規格への対応が必須。企業には自主的な取り組みが望まれている。(→JIS X 8341-3 解説 3.適用範囲)
JIS X 8341-3 一般的原則
規格書「4.一般的原則」にて、基本方針や基本的要件がまとめられている。ここでは、パソコンのWebブラウザでの閲覧だけでなく、情報家電などさまざまなブラウザでの閲覧も考慮するように求めている。
4.1 基本方針
- ウェブコンテンツを企画・制作するときに、可能な限り高齢者・障害者が操作または利用できるように配慮する
- ウェブコンテンツは、できるだけ多くの情報通信機器、表示装置の画面解像度およびサイズ、ウェブブラウザおよびバージョンで、操作または利用できるように配慮する。
- ウェブコンテンツの規格から運用に至るプロセスで情報アクセシビリティを常に確保し、更に向上するように配慮する。
4.2 基本的要件
- 視覚による情報入手が不自由な状態でも利用できる
- 聴覚による情報入手が不自由な状態でも利用できる
- 特定の身体部位だけでの入力方法に限定しない
- 身体の安全を害することなく利用できる
(例:激しい画面の点滅をさける)
JIS規格書の読み方
規格書の文には、“必須”と“推奨”2つのレベルが存在する。
- 必須レベルの要件
『・・・しなければならない。』
『・・・することが望ましい。・・・できない場合は、・・・しなければならない。』 - 推奨レベルの要件
『・・・することが望ましい。』
Webコンテンツ作成時に考慮する項目の例
コンテンツ作成時に考慮する項目のうち、W3Cが1999年5月5日に勧告したWCAG1.0にはない独自の項目が紹介された。下記にその中の一部をピックアップする。規格書では図を交えてわかりやすく解説してある。
- 『5.2 e) ページのタイトルには、利用者がページの内容を識別できる名称を付けなければならない』
→音声ブラウザ使用者がページを正しく識別できるように配慮が必要。サイトの中でユニークなものがよい。 - 『5.3 c) 入力時間に制限時間を設けないことが望ましい。制限時間があるときは事前に知らせなければならない。』
→高齢者や障害者支援技術を利用している人は、入力作業に時間がかかるため。入力困難なユーザに配慮する。 - 『5.3 d) 制限時間があるときは、利用者によって時間制限を延長または解除できることが望ましい。これができないときは、代替手段を用意しなければならない。』
→代替手段の用意を必須としている。 - 『5.5 b) ウェブコンテンツの内容を理解・操作するのに必要な情報は、形または位置だけに依存して提供してはならない。』
→視覚障害者への配慮。表の中で利用される「○」や「×」(○や×の内容が何なのか分からない)。入力フォームで“赤は必須項目”と指示する場合(「必須」の文字を該当する部分に入れなければ、どの部分が必須なのか色だけからは正しく理解できないユーザーがいる)。テキストによる説明を付けることが重要。 - 『5.6 b) フォントを指定するとき、サイズおよび書体を考慮し読みやすいフォントを指定することが望ましい。』
→ウェブブラウザで、利用者が自由に選択して表示できるようにする。FONTタグで色やサイズを指定すると利用者が自由に変更できない。 - 『5.9 e) 表現のために単語の途中にスペースまたは改行を入れてはならない。』
→音声ブラウザなどで、正しく読み上げることができなくなる。HTML文書で見栄えを定義しない。 - 『6.4 ウェブコンテンツの企画・制作を行う者は、利用者の意見を収集する窓口を用意し、利用者からの意見をウェブコンテンツの情報アクセシビリティの確保・向上に生かさなければならない。』
→制作者が考えて作成したページが必ずしもユーザーにとって使いやすいとは限らない。ユーザーの声を集め、問題点や改善点を幅広くリサーチする必要がある。
アクセシブルなWebコンテンツの制作
先に紹介された「Webコンテンツ作成時に考慮する項目の例」の他にも、アクセシビリティを高める手法が紹介された。(JIS X 8341-3に記載の内容も含まれている。)
- 見出しを表すタグ(h1やh2)を利用する
→ページの構造が明確になるだけでなく、音声ブラウザにおいてセクションのスキップができるようになり、視覚障害者の閲覧が容易になる。 - 画像には適切なalt属性を付ける
→「写真」や「画像」といった単なる説明ではなく、サイト・文章の中でどのような意味を持つか?、それを内容として記述する。 - フォームの工夫
→例えば、ラジオボタンとその横に表示させるラベルを、<label>タグを用いて関連づけることで、ラベルをクリックした場合でもラジオボタンの状態が変化するようになる。 - 操作を一つの手段に依存しない
→視覚障害者は主に「キーボード」を利用して操作をする。マウスでできることは、キーボードでも操作できるように工夫する。また「可能だけれども、どれだけ楽にできるか」を考慮して制作を行うと、障害を持つ人だけでなく全ての人にとって使いやすいものとなる。 - リンクの張り方の工夫
→IBMの音声ブラウザ「ホームページリーダー」等では、通常のテキストとリンクが張られているテキストでは声色が変化する。「こちら」等の文字にリンクを張るのではなく、リンク先の内容を適切に説明した文にリンクを張ることが重要。また画像にリンクを張る場合には、alt属性を必ず付ける。alt属性がない場合は、URIを読み上げてしまう。 - Tableをシンプルに
→テーブルを複雑にすると理解が難しくなるユーザがいる。設計に時間をかけ、見出しなどを適切に付けたTableを作る必要がある。(複雑なテーブルはレンダリングも遅く、音声ブラウザでは読み上げ時の障害となる。) - CSSを利用する
→アクセシブルなページの作成には必須。WCAG1.0のガイドライン3でもスタイルシートの利用が求められている。 - ツールの利用
→「Dreamweaver MX 2004」と「LIFT for Macromedia Dreamweaver」の組み合わせなど。作成者がJIS規格の内容全てを理解する必要がなくなるなど、コーディングの負担が軽減される。
関連リソース
アクセシビリティに関わる法律・規格、またアクセシブルなサイト作成に役立つWebサイトの一覧。
法律・規格・ガイドライン
- 日本工業標準調査会(JIS X8341の閲覧)
http://www.jisc.go.jp/ - Web Contents Accessibility Guidelines 1.0(WCAG1.0)
http://www.zspc.com/documents/wcag10/index.html - 米国リハビリテーション法第508条について(Macromedia)
http://www.macromedia.com/jp/macromedia/accessibility/508standards.html
ツール
- 富士通アクセシビリティ・アシスタンス
http://design.fujitsu.com/jp/universal/assistance/ - IBM aDesigner
http://www.research.ibm.com/trl/projects/acc_tech/adesigner.htm
音声ブラウザ・スクリーンリーダー
- IBM ホームページリーダー
http://www-6.ibm.com/jp/accessibility/soft/download_v1.html - IBM JAWS ver4.5
http://www-6.ibm.com/jp/accessibility/soft/download_jaws45.html - 高知システム開発 PC-Talker
http://www.pctalker.net/
アクセシビリティに関する情報
- Macromedia アクセシビリティ教室
本セミナー講演者、植木真氏が連載中。
http://www.macromedia.com/jp/macromedia/accessibility/column/sociomedia_accessibility/ - Macromedia Flash ではじめるアクセシビリティ
本セミナーパネリスト、NORI氏が連載中。
http://www.macromedia.com/jp/macromedia/accessibility/column/togoru/index.html - 日本工業規格(JIS)X8341関連情報
http://www2.nict.go.jp/ts/v862/105/jis/index.htm